弱小チームとして知られるリカオンズの主砲として君臨する大打者、児島は、一度も優勝することができないまま現役を終える予感を味わっていました。そんな冴えない沖縄キャンプの最中に、彼らは野球を使っての投手と打者のワンアウト制の賭け勝負の存在を知ります。
そして、その「ワンナウツ」で無敗を誇っている日本人というのが、本作での主人公、渡久地だったのです。渡久地は、まったくスピードボールを投げず、変化球もありませんでしたが、人間業とは思えないコントロールと悪魔のようなクールなメンタルと勝負術により、無敗街道を突き進んでいました。
必死の勝負の末にその実力を認めた児島は、渡久地をプロ選手として連れて帰ることにした、という導入から進む本作は、純粋な力と力ではなく、技と知略と罠が交錯する、ダーティかつ魅力的な野球作品となっています。
アニメ化までされた人気作の中で、ここまで「悪い」主人公は極めて珍しいだけに、本作の存在感は異彩を放っています。
本作の最大のポイントは、タイトルにもなっている「ワンナウツ」契約です。これは渡久地とリカオンズのオーナーが結んだもので、渡久地は、ワンアウトを取るごとに報酬を得られるものの、一点でも取られたら大金を失い、場合によっては借金を余儀なくされたりするという過酷なものです。
プロ選手を使う契約としてはあまりにも厳しすぎるものとも言えますが、だからこそ渡久地が登板する局面には一切の緩みがなく、常にハラハラした展開が楽しめるんですね。また、淡々と勝ちを重ねていく渡久地ですが、実は誰よりも勝負にこだわる強さを持っており、チームの危機にそうした本音が垣間見えるなど、正統派の熱い展開が楽しめるのもいいですね。
しかし、あの「ライアーゲーム」で強烈な心理戦を披露した甲斐谷氏の筆による作品だけに、その戦略は徹底的なものがあり、アニメになったことでさらにえげつなさが強力になっているという印象がありました。「勝つために負けを目指す」など、昨今の現実のスポーツ界でも物議をかもした展開が、ある意味では「堂々」と行われていて、思いがけない奇略に目を丸くさせながらも、スポーツを深く考え直せるような作品になっているとも言えますね。
いわゆる「スポ根」的な展開とは無縁で、渡久地の勝負師全開の性格がとてつもなく目立つ作品ですが、スポーツよりギャンブル系の作品が好きだという方にも本作はオススメできますね。
星は9個です。