昭和の中頃、大阪の下町で暮らす少女、チエは、店をやりながらもまったく働かない父親、テツの手伝いに毎日店に立ち、一生懸命働いていました。しかしキップの良さも腕っ節の強さもテツ譲りな彼女は、メソメソ泣いたりはしません。調子に乗るお客にはビシビシと注意を入れ、テツや自分のことを槍玉に上げてからかってくる男の子たちには、容赦なくその力強さを見せたりします。
一世を風靡した関西系ホームコメディ作品なのですが、当時の古き良き町並みから人情までが完璧に残されていると思えるような丁寧な作りが素晴らしい一作です。喧嘩は大好きで、実は奥さんのヨシ江さんも大好き、しかしヤクザも喧嘩で負けることも大嫌いというテツは、事あるごとにヤクザをボッコボコにしますが、滅多なことでは問題になったりしませんし、仮に捕まったりしても周りから見捨てられることはありません。「まったくあのクズ鉄は……」とボヤかれつつも普通に日常に復帰するわけですね。
チエやマサルの遠慮なく、しかしベタベタしていない関係はまさにリアルな小学生っぽい部分と言えますし、あっさりとしているようでいて、実は極めて技巧に富んだ描写を、チエやテツたちの「つくり」のない声とネイティブな関西弁が盛り立てていきます。
また、個性豊かで時には容赦なく喧嘩する面々が揃っているだけに、何かにつけてえげつない出来事が起こったりするのですが、そこには後を引くような湿っぽさがまったくなく、暮らし向きやら懐具合など関係ない、明るく楽しい「本気」があります。
大人であるにも関わらず、常にわんぱく坊主なテツはもちろんのこと、花井のおっちゃんや先生やヨシ江さんも、それぞれにスタンスは違いますが、ぬるく生きている感じは一切ありません。チエちゃんにも常に本気で接し、何かを伝えようとしているのが分かります。
何も起きないから笑っていられる、昨今の日常物作品とはまた違う、それこそヤクザの賭場で親友同士が鉢合わせになるような修羅場があっても、何だかんだと事が済んだらまた元通りになれるような強さが本作にはあります。
確かに不便で貧しくて大変な時代でしたが、その強さとハツラツとした毎日だけは今でも代え難い、じゃりン子チエで描かれているのはそんな一頃の暮らしであり人間であり、さらに言えばもっと深い「何か」であるようにも思います。
恐らくもう二度と戻れないからこそ、とても尊くて愛おしい、後々にまで語り継がれていって欲しい、素晴らしいアニメだと言えるでしょう。
星は9個です。