コミックとして百巻を超えるほどの超長編、アニメも継続したシリーズとなった大ヒット作「はじめの一歩」のアニメシリーズの第三期です。強いとは何かを求めてボクシングの道を進み、
ついには日本チャンピオンになり、そこでも防衛を重ねていった一歩ですが、国内に敵がいなくなったわけではなく、むしろ穴の多いチーズチャンピオンとして標的にされてすらいました。
単にボクシングをやり、試合に勝っていけば良かった、挑戦者の頃の立場とはまた違う、追われる者として苦しい状況にある一歩の姿がそこにあります。鷹村や青木、そして木村といった先輩たちもそれぞれの目標に向けて全力投球を続けていますし、
後輩である板垣も入ってきたために、人に頼れる立場になく、また自分のことだけにこだわっていれば良い状況でもないといった状況の変化がはっきりしていると言えるでしょう。
本シリーズで最大のポイントとなってくるのが、はじめの一歩シリーズではなかなかいなかったタイプの強敵、沢村です。元々喧嘩での腕自慢だったとは言え、その残虐性は同じく元不良である千堂たちとはまったく違うものがあり、
ただいたぶるだけに平気で反則行為をやってのけるなど、ある意味ではボクサー失格でありながら、一方でボクサーとして類まれな才能を持っているというキャラで、
攻撃的ではない一歩に対しても圧力をかけ続け、果ては久美さんに対してまで手を上げてしまうというほどの恐ろしい人間でもあります。
そんな沢村に苦戦しながら打開策を模索していく一歩の奮闘が描かれているのが本作ですが、やはり多くのボクサーを倒し実績を積んできたということもあって、戦い方がよりテクニカルで高度な駆け引きが繰り返される形になっています。
タフな心根を全面に出しつつ、より競技としてハイレベルな状況が描かれているのは、やはり進化であると思いました。
また本作では、鴨川会長と猫田さんがボクサーをやっていた「戦後編」も描かれています。徹底的に国土を破壊され、占領軍相手に媚びを売らなければ生きていけなかった当時の状況にあって、あえて決して下を向かず、
短い命を燃やし尽くそうとしていたユキさんと、彼女に思いを寄せる猫田さん、そして拳闘一途な鴨川が必死で巨大な壁にぶつかっていくその生き様は本当に熱く素晴らしく、現代的スポーツである一歩本編とはまた違う素晴らしさを見て取ることもできました。
かなりしんどい展開ではあるのですが、こうした下地があってこそ現代の鴨川ジムがあるというわけで、熱い思いの原点に触れられたことは、はじめの一歩全体をより深く理解するためにも必要なエピソードだったと思います。
星は8個です。