いじめられっ子だった幕之内一歩は、自分のことはおろか母親のことをバカにされても相手に立ち向かえない「弱い」少年でしたが、いじめっ子の不良、梅沢たちに路上で殴り飛ばされていたところに、プロボクサーの鷹村に救われますが、鷹村は一歩の弱さを罵倒します。
ずっと力を証明できなかった一歩は、「強さってどういうこと」なのかという問いを己の中に宿して戦い始めるんですね。いわゆる単なる喧嘩ではなく、また、殴られ続けてきたことへのリベンジでもないという一歩の爽やかさと言い、これまでのボクシング漫画とはまったく違う部分が多い作品とも言えます。
一歩は徐々に強くなっていきますが、今までのボクシング漫画にはつきものの減量をこなしたりはせず、また、荒んだ心や強烈な破壊衝動とも無縁な男です。故に一歩を中心にした物語は、他の作品とはまるで違う雰囲気を持った、純粋なスポーツ漫画として多くの支持を集める形になったのです。
原作で大人気を博して、かなりの時間が経ってからのアニメ化となった本作は、それだけに一歩の芯の強さや秘めた熱さなど、全編を通じて語られるべき内容を完璧に抑えた形での展開が行われています。
ファイトシーンはとにかく迫力満点で、原作で多くのファンを魅了した息もつかせぬ攻防を完璧に再現し、さらに新たな「命」を吹き込んでいるような説得力があります。また、喧嘩とは一線を画する一歩のファイトスタイルだからこそ、映像にしてみると、相手の良さも十分に引き出した、ボクシングとして質の高い試合になっていくという点も興味深いところです。
物語展開的には原作を踏襲しているため、初見でない多くのファンはどうなるのか先を「知って」いるのですが、それでもなお初めて見る試合のようにエキサイトしてしまうような良さが本作にはあります。
とりわけ、一歩の一度目の日本タイトルマッチ挑戦となった対伊達戦と、二度目のタイトル挑戦となった対千堂戦の熱さは、他の名作と呼ばれる格闘アニメと比べても抜群のものがありました。
また、技術的にも、ちょうどセル画からCGアニメに移行する境目の時期にあたる作品だけに、最末期のセル画時代の、一枚一枚キッチリ仕上げていくからこそ得られる独特の描写力や迫力を堪能できるといった点も見逃せない部分と言えるでしょう。
千堂や宮田、そしてヴォルグといったライバルたちの声も、イメージに実に合っており、何度観返しても飽きのこない名作だと言えるでしょう。
評価は9点です。