現代日本とはどこか異なる、近未来の社会。一般的な市民社会から弾かれた場所でもボクシング興行は盛んで、彼らはギアと呼ばれる装置をつけた状態での賭けボクシングで日頃の憂さを晴らしていました。
そんな中、強いために八百長で負け役をやることを強いられている「ジャンクドッグ」は、ある時、表の世界のチャンピオンである勇利と出会い、その実力に圧倒されるとともに魅了され、
賭け興業のバックにいるヤクザに脅されつつも偽造IDによって市民権を手にし、「ジョー」として、勇利が待つであろう、最大の興業大会「メガロボクス」の頂点を狙って戦い始めるというストーリーです。
あの歴史的名作「あしたのジョー」五十周年を記念して制作されたアニメということで、「あしたのジョー」を下敷きにしたシーンがとても多く、往年のファンもニヤリとさせるような演出が楽しめます。「密入国」的な身分であるため資金がなく、
あえてギアをつけない「ギアレス・ジョー」として戦い始めたジョーの戦い方は、まさしくノーガード戦法を彷彿とさせるものがありますし、元来ウェイトが重いほど有利なボクシング試合に、「ギア」という要素を加えたことで、
軽い階級にもチャンスが生まれ、また減量苦の恐怖を味わわなくて済むなど、SF的世界観が実にうまく融合されている点も見逃せません。
戦傷が原因で両足を無くしたボクサーが実力者として君臨している部分には、ここ最近の補助具の進化を見て取ることができましたし、ギアを扱う関係上、最近大流行のAI搭載モデルを使うボクサーも登場します。ギアが勝敗を左右するため、開発力が問われる状況や、またギアを他の分野に転用しようという動きも見ることができます。
試合に至るまでの演出やPVなどもグッと今風で、個人的には一昔前の格闘技ブームの頃よりも、さらに洗練された興業の面白みも凝縮されているように感じることができました。
とは言え、やはり最後は拳と拳、男の情念がぶつかり合ってなんぼの「あしたのジョー」的男らしさは完全に健在、萌えともお色気とも無縁のハードな世界観の中、時に衝突し時に協力し合いながら進んでいくその物語は、まさにヘビー級といった趣があります。
魔法のような特殊技能や、一発逆転の必殺技などは基本的にない世界ですが、だからこそ時代は変わっても人に支持され続けるボクシングの素晴らしさが示されていると思いました。
「あしたのジョー」ファンにはもちろん、「はじめの一歩」などのボクシングアニメにハマった方にも、とてもオススメできる一作と言えるでしょう。